天体核研究室の概要

天体核研究室は1957年に林忠四郎先生によって設立された、宇宙物理学の理論的研究を行う研究室です。
研究対象は宇宙に関連のあるすべての物理過程であり、宇宙の大規模構造から星の形成過程まで多岐に渡ります。
構成員は自分の研究対象を狭めることなく幅広く研究を行うことが奨励され、日本国内および海外の研究者とも協力的に研究を進めています。
とりわけ、基礎物理学研究所の宇宙グループとは教育・研究の両面で密接に協力しています。

研究活動

天体核研究室では、重力波・重力理論、重力、宇宙物理学の三本柱を中心として幅広く研究活動を行っています。

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重力波・重力理論

2015年9月、米国のLaser Interferometer Gravitational-Wave Observatory (LIGO) が重力波を初めて直接検出しました。
この波源は30太陽質量程度のブラックホール2つからなる連星でした。
その後、連星ブラックホールは様々な質量のものが10例報告されており、現在もその候補は増え続けています。
さらに2017年には、欧州のVirgoも参加した観測により、連星中性子星の合体がまずは重力波で、さらに引き続いて多波長の電磁波でも検出されています。
有力な重力波源となるのは、コンパクト天体を伴う多様な天体現象です。
既に見つかった連星中性子星や連星ブラックホールの合体を筆頭に、超新星爆発や銀河中心の超巨大ブラックホール同士の合体、また超巨大ブラックホールへの軽いコンパクト天体の落下などが典型例に挙げられます。
本研究室では、このような現象からの重力波波形を、ブラックホール摂動論を中心とした解析的研究・数値相対論を中心とした数値的研究の両面から理論的に予測しています。
波形の計算ばかりでなく、重力波の観測によってどのような新しい宇宙物理学の研究が可能になり、天体物理や宇宙論への理解を深められるかを知ることも重要な課題のひとつです。
また、新たな重力波源の候補を提案することも重要な研究課題です。
連星ブラックホール合体の初検出に関連して、当研究室のメンバーを含むグループが行った原始ブラックホールの研究は注目を集めました。
連星中性子星合体を通し、ガンマ線バーストやr過程元素合成などの天体現象についても研究が進んでいます。
他にも近年ではデータ解析の側面からブラックホールの準固有振動や中性子星の状態方程式を研究しています。
また、宇宙論起源の重力波や、根本的に重力理論が一般相対論とは異なる可能性についても精力的に理論的研究を進めています。

宇宙論

宇宙論は、物理学を用いて宇宙初期から現在に至る宇宙の歴史を明らかにしようという学問です。
現在の宇宙論は、インフレーションからビッグバンへと繋がる標準モデルが観測的に検証されつつあり、精密科学としての立場を確立しつつあります。
他方で、ダークマターやダークエネルギー問題などの基礎的な問題は解決の糸口さえ見つからないといった状況にあります。
今後、観測の発展に伴い膨大な観測データの蓄積が期待できます。
このような観測事実を視野に入れつつ、宇宙論の基礎的な問題の解決を我々は目指しています。
宇宙論の研究では、バリオン生成、ダークマター問題、ダークエネルギー問題、宇宙の初期密度揺らぎ、重力理論の精密測定など、さまざまな要素が絡み合う中から、整合的なモデルを作っていくことが必要とされます。
したがって、宇宙論では様々な視点、そして広い知識を持つことが重要となります。
本研究室では、一極集中型のプロジェクト的研究を進めるのではなく、各人が自らの意思で興味ある重要な課題を追求することを推奨しています。
また、近隣の研究機関との連携も緊密にとることで、かなり多様で広範な研究領域をカバーしています。
観測の進展のみならず、近年は一般相対論の拡張の可能性についても広く議論されています。
ひとつには宇宙論的に観測とより整合するモデルを追求するという目的もありますが、一般相対論に対する対抗馬として成立するモデルにはどのようなモデルがあるのかを明らかにすることも観測の精密かに伴い必要とされています。
このような観点で新しいモデルの基本的性質を明らかにしていくことで面白い発見が次々に生まれています。
同時に、様々なモデルの可能性が理論的研究の進展によって、観測との不整合が明らかとなり淘汰されていきます。
宇宙論には、基本的な謎がまだまだたくさんあり、本研究室では毎日活発な議論が行われています。

天体物理学

天体物理学は基礎物理学を用いて宇宙における種々の構造の起源・進化を研究する学問であり、あらゆる物理学の応用対象となっています。
我々の研究姿勢の特徴は、観測結果に基づく経験則等に依存することなく、基礎物理学から演繹的に理論を構築するという姿勢を貫いて研究を進めることです。
このやり方は時間が経過しても価値を失わない、首尾一貫した理論的な研究成果を残すためには必須であると考えています。
我々の研究室では基本的に自ら興味を持ったテーマを自由に研究することができますが、最近は特に初期宇宙における天体形成の研究が活発に行われてきました。
宇宙論の標準モデルが精度よく定まっている現在、宇宙で最初に誕生する星 (初代星) や巨大ブラックホールの形成過程を理論的に予言することが可能です。
現在の標準的な描像では、初代星は典型的に太陽の100枚程度の質量を持つ大質量製であると言われています。
こうした初期天体形成は未だ現在の観測の届かない遠方宇宙にあり、観測的検証はまさにこれから行われようとしています。
例えば、最近発見された重力波は連星ブラックホールの合体によるものであり、これは初期宇宙に誕生した大質量星同士の連星が起源になっているとも言われています。
一方で、大質量星同士の連星がいつ、いかなる環境でどのように誕生するかの理論的な研究もこれから進もうとしています。
より将来には、重力波という全く新しい観測手段を通じて、全く未知の初期宇宙における天体形成過程が初めて明らかになる可能性があるのです。
以上の例から分かるように、ここで述べた天体物理学の研究は、宇宙論、重力の両分野の研究と重なることもしばしばあります。
我々の研究室はカバーする分野が比較的広いため、こうした分野間の垣根を超えた自由な研究の機会にも恵まれています。

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具体的な研究室の活動としては、全体で行っているコロキウム・速報を中心に、3本柱のそれぞれに対応するゼミを行っています。
他の研究機関 (基研、阪大など) との横断ゼミや共同研究なども、盛んに行っています。
また、年2回、各個人の研究の進展状況を報告する「中間発表会」と題する研究会を行っています。

最近の学位論文

博士論文

Axion clouds around black holes in inspiraling binaries [高橋卓弥: 2024年3月]

The Spin of Ultralight Dark Matter: From Theory to Observation [間仁田侑典: 2024年3月]

Evolution of self-interacting axion around rotating black hole [大宮英俊: 2023年3月]

Transient resonances in extreme-mass-ratio inspirals [Priti Guputa: 2022年9月]

New method of all-sky searches for continuous gravitational waves [山本貴宏: 2021年5月]

Infrared secular effects on our local universe and the stochastic approach to inflation [徳田順生: 2020年3月]

The possibility for detecting the shortest period Galactic neutron star binary in the LISA-SKA ear [西野裕基: 2019年5月]

Radiative feedback from massive stars in low-metalicity environments [福島肇: 2019年3月]

Lidov-Kozai mechanism in shrinking Massive Black Hole binaries [岩佐真生: 2018年3月]

Chiral Primordial Gravitational Waves Sourced by Axion-Gauge Couplings [小幡一平: 2018年3月]

Properties of the Ejecta from Binary Neutron Star Merger Remnants and Implication for the Electromagnetic Signal Associated with GW170817 [藤林翔: 2018年3月]

X-ray detectability of Galactic isolated black holes [松本達矢: 2018年3月]

修士論文

宇宙の大規模構造の観測から探る原始密度ゆらぎの統計的非等方性: 銀河の固有形状を組み合わせた検出精度向上の可能性 [湊恵太: 2024年3月]

断熱進化によるコンパクトなボゾンスターの形成の可能性 [宮内侑: 2024年3月]

連星種ブラックホールへのガス降着と軌道進化 [鈴口智也: 2023年3月]

マグネター磁気圏における高速電波バーストの粒子散乱 [西浦玲: 2023年3月]

粒子軌道に基づくダークマターはロー中心部の密度構造の解析 [柄本耀介: 2022年3月]

宇宙最初のcold accretion発現と超大質量星形成の可能性 [喜友名正樹: 2022年3月]

合体するブラックホール連星における潮汐力によるアクシオン雲の消失 [高橋卓弥: 2021年3月]

SO(N)とシフト変換に不変な一般化複数場ガリレオン理論 [間仁田侑典: 2021年3月]

Fast Radio Burstの曲率放射機構への電磁気学的制限 [宇野真生: 2020年3月]

Kerrブラックホール周りにおけるアクシオンのダイナミクス [大宮英俊: 2020年3月]

ハッブル定数の不一致問題に対するCosmological Backreactionによる説明の問題点 [三浦大志: 2019年3月]

粒子軌道に基づくダークマターハロー位相構造の解析 [杉浦宏夢: 2018年3月]

 

参考資料

2023年度教室発表会報告書

 

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