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ファーストスターは太陽の40倍の重さ

—コンピュータ中に再現された宇宙最初の星の成長過程—

京都大学、東京大学、NASAジェット推進研究所の4人による研究チーム は宇宙最初の星:ファーストスター(初代星)が生まれて成長していく過程の コンピュータシミュレーションを初めて行い、太陽のおよそ40倍の重さの 星ができることを示しました。これまで、初代星は太陽の数百倍という現在の宇宙には 殆ど見られないような巨大な星であると思われてきたのですが、そのような モンスター星にはならないことが分かったのです。 観測的にはむしろ初代星は太陽の数十倍程度であることが支持されており、 これまでのモンスター星の描像と一致しなかったのですが、 我々の研究によりこの謎は解決することになりました。

論文タイトル:Protostellar Feedback Halts the Growth of the First Stars in the Universe
(邦訳:原始星フィードバックは宇宙初代星の成長を抑制する)
著者:細川隆史 (1,2)、大向一行 (1)、吉田直紀 (3)、Harold W. Yorke (2)
所属:1: 京都大学理学研究科、2: NASAジェット推進研究所、3: 東京大学数物連携宇宙研究機構

研究成果は米科学誌Science誌において特にインパクトの高いものと推薦され、
2011年11月11日にScience電子速報版に掲載されました。


お問い合わせ: hosokwtk_at_gmail.com, hosokawa_at_tap.scpys.kyoto-u.ac.jp (_at_ --> @)

研究の背景と動機

宇宙は137億年前のビッグバンから始まったと考えられています。その後、少しずつ 天の川のような銀河、太陽のような星々、地球のような惑星、そして私たち 人類のような生命が作られて来たのです。 こうした私たちにつながる長い進化の最初の一歩が宇宙で最初の星: ファーストスター (初代星)です。
これまでに、私たちの研究チームは初代星はビッグバンから3億年後に誕生し、 それは太陽の重さの100分の1の重さの星の赤ちゃん~原始星~であったことを 明らかにしました(下図参照)。 現在ではこの考えは世界中の研究者に広く受け入れられています。


しかし、これは実は星形成のほんの始まりにすぎません。 実は、原始星が誕生したときには、原始星のまわりには太陽の1000倍にもおよぶ 大量のガスがあります。 この後、原始星はまわりのガスを重力によりどんどん集めて、星は大きくなっていきます。 もし、原始星がガスの大半を集めることができれば、太陽の数百倍の重さの "モンスター星"になるというわけです。しかし、その進化を実際にくわしく計算した 例はありませんでした。今回私たちは、 この星の赤ちゃんが成長して、核融合反応によるエネルギーによって自ら光る一人前の 星ができるまでの約10万年にわたる進化を初めてコンピュータ中に再現しました。

成長の自己抑制機構の発見:初代星はモンスター星ではなかった

私たちの目にした初代星成長の様子はとてもダイナミックで驚きにあふれたものでした (下図と動画参照)。 原始星が太陽の20倍程度の重さになると、星の出す光、つまり明るさは実に太陽の10万倍 にも達します。この宇宙最初の星からの光は星周辺のガスを温め、ガスが星に降り積もるの を妨げようとします。最後にはガスは外側に流れるようになり、星の成長は完全に止まります。 そして太陽の約40倍の重さの星が残りました。



動画:1 2 (別角度) 3 (別角度) 4 (2次元断面) 5 (中心部1/10)


images and videos credit: 京都大学 / JPL-Caltech / NASA

これまで長い間初代星は太陽の数百倍という現在の宇宙にはほとんど見られないような巨大な星 と思われてきたのですが、今回の研究で発見された、 いわば成長の自己抑制機構によってその ようなモンスター星にはならないことが分かったのです。

初期宇宙の長年にわたる謎を解決:観測との一致

これは未だ私たちの観測の及ばないはるか太古の宇宙での出来事ですが、実は私たちの手の 届くところにも初代星の痕跡があります。銀河に存在する最も古い星々をくわしく観測すると、 初代星が死を迎え超新星爆発を起こしたときにまき散らされる様々な元素の存在量を知ることが できます(下図参照)。


最新の観測は宇宙最初の星は太陽の数十倍であったことを示唆していて、 宇宙最初の星がモンスター星であったとのこれまでの理論的予想との食い違いが謎とされて いました。 私たちのシミュレーションにより観測結果と一致する初代星形成の描像を初めて 得ることができました。 初代星形成の理論を大きく前進させ、将来の宇宙望遠鏡や地上大型望遠鏡 を用いた観測計画に重要な示唆を与える成果です。

LINK

+ 論文 (Science誌電子速報版) 英語
+ 東京大学数物連携宇宙研究機構 (IPMU) ニュース 日本語 英語
+ NASA報道発表 英語
+ 吉田直紀さんの研究紹介ページ 日本語